怒鳴る父の記憶が消えないのはなぜか|父の怒声が大人の生きづらさをつくる理由
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父が怒鳴っていた。
机を叩く音、食器が割れる音、
「うるさい!黙れ!」
「親に口ごたえするな!」
「誰に食わせてもらってると思ってるんだ」
「気に入らないなら出てけ!」
—そういった場面を、ふとした瞬間に思い出す。
何十年も前のことなのに。今はもう関係ないはずなのに。
似たような怒鳴り声を聞くと、体が固まる。
上司が少し声を荒げただけで、心臓が跳ね上がる。
怒っている人を見ると、頭より先に体が反応してしまう。
「なぜ自分はこんなに怖がりなんだろう」
「こんな小さなことでびくびくして情けない」
もしかしたらあなたもそう思っていませんか。
怒鳴る父の記憶はなぜ消えないのか
トラウマ体験は”普通の記憶”と脳の処理が違う
記憶には、「普通の記憶」と「強烈な体験の記憶」があります。
たとえば昨日の夕食に何を食べたかという記憶は、海馬という部位で処理されて、時間とともに薄れていきます。
「そういえばカレーだったな」という感じで、思い出そうとすれば出てくるけれど、特に引っかかってはこない。
でも、強い恐怖や脅威を感じた体験は、扁桃体という部位が強く反応します。扁桃体は「これは危険だ」と判断した体験を、特別に強く刻もうとします。次に同じ危険が来たときにすぐ逃げられるようにするためです。

父親が怒鳴るというのは、子どもにとって「恐怖体験」です。
大人なら「怒っているだけで命の危険はない」と判断できます。でも、まだ自分では生きていけない子どもにとって、養育者が激しく怒ることは
「自分を守ってくれるはずの人が、自分に向かってくる」
「この人に愛してもらえなければ(捨てられたら)命に関わる」
—そういうとてもストレスの大きな体験なのです。
この体験が積み重なると、脳は「怒鳴り声=危険」という回路を深く刻み込みます。
大人になってからも、似たような刺激(大きな声、怒気のこもったトーン、突然の物音)に対して、あの頃と同じように体が反応してしまうのです。
これは意志の力でどうにかなるものではありません。脳が生存本能として記録した反応だからです。
では、怒鳴り声の記憶だけが問題かというと、そうではありません。
怒鳴られながら育つことで、もっと深いところに影響が残ります。
怒鳴る父親が子に残すもの
感情を感じないように頑張ってしまう
父が怒鳴った瞬間、本当は子どもは何かを感じているはずです。
悲しい、怖い、逃げたい、「やめて!」と叫びたい—。
でも、その感情を表に出せない状況が続くとき、子どもの心はある戦略をとります。
感じないようにする、という戦略です。
感情を感じることをやめれば、傷つかなくて済む。怖いと思わなければ、怖くない。泣きそうになっても、こらえていれば乗り越えられる(「泣くな!」と怒鳴られなくて済む)。
これは子どもなりの、命がけの生存戦略なのです。
当カウンセリングには実際に
「感情を感じないで済む方法はないでしょうか?」
と相談された方もおられました。
幼少期から親に怒鳴られ、感情を抑え続けてきた。
それでもまだ感情が出てくることがあるので、まるでロボットのように完全に感情をゼロにはできないものか、と。
その方にとっては切実な問いだったと思います。
ただ、本当にそんなことができたとして。
完全に感情を失った先にあるのは「鬱状態」です。
そして。
感情を抑えてきた人の多くは、もうひとつの信念を同時に持っています。
「自分が悪い」という刷り込み
「感情を感じる自分が悪い」
「自分が悪いから、怒鳴られる」
小さな子どもは、自分の養育者が”悪い存在”だとは思いたくありません。
「親が間違っている」と思うことは、その子にとって世界の崩壊に近い恐怖です。
だから代わりに「自分が悪かったから怒られた」という解釈を選び、信じようとします。
でも。子どもも少しずつ成長する中で「親がおかしいんじゃないか」と気づき始めます。
するとどうなるか。
あからさまに反抗するか、表面上は従いながら腹の中で反発するか—のどちらかになってしまいます。
そうなるとますます
「自分は嘘つきだ」
「離れられない自分が弱い」
「意見が言えない自分が悪い」
と、自分を追い詰める方向に進みがちです。
あなたは、何も悪くなかった
「こんな話をされても、頭ではわかっているんです。でも、それが…」
カウンセリングでよく聞く言葉です。
頭ではわかっている。でも心が追いつかない。
「あなたは何も悪くない」と言われても、ピンとこない。
長年かけて「自分が悪い」という信念を積み上げてきたのに、一言で解けるはずがないからです。
だから一つひとつ、確認させてください。
怒鳴ることは、大人(あなたの親)が自分の感情を制御できなかった結果です。
子どもの行動に原因はありません。どんな行動をしていても、子どもが怒鳴られて当然な理由にはなりません。
感情を感じないようにしたのは、あなたの弱さではありません。
怒鳴られ続ける環境で生き延びるために、子どもの心が選んだ本能的な対処です。
「自分が悪い」と信じようとしたのは。
親を守るために、子どもが自分を犠牲にした選択です。
表面上従いながら腹の中で反発する自分を嫌いになったのも、本当の自分を消してまで関係を保とうとした、切実な生き残り方でした。
今、体が固まるのも。反射的に自分を責めるのも。感情がわからなくなっているのも。全部、つながっています。
あなたが弱いのではない。それだけのことが、あなたの体と心に、長い時間をかけて刻まれてきたということです。
父の日が近づくと憂鬱になるあなたへ
父の日が近づくと、なんとなく憂鬱になる方もいると思います。
「おめでとう」と言わなければというような圧を感じる方も。
無理に「良い子」を演じなくていい。向き合うペースは、あなたが決めていい。
ただ、もしここまで読んで「誰かに話してみたい」と思ったなら、その気持ちを大切にしてほしいと思います。
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